未来予知できるカカシが殺された!伊坂幸太郎デビュー作「オーデュボンの祈り」の感想・書評・解説

2016/11/08

伊坂幸太郎の記念すべきデビュー作である「オーデュボンの祈り」

この作品で伊坂幸太郎は第五回新潮ミステリー倶楽部賞を受賞しました。

伊坂幸太郎本人がインタビューなどで答えている「現実から1センチだけ浮いた物語」をデビュー作からしっかりと描きこんでいる所からも伊坂幸太郎の才能の高さを伺い知ることができます。

そんなこんなでまず「あらすじ」からまとめていこうと思います。

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「オーデュボンの祈り」のあらすじ

「目が、目が疲れたんです」という理由で、5年間務めたソフトウェア企業を退職した伊藤は、銀行強盗を行おうとして失敗し、逮捕された。その後逃げ出すことに成功するが、意識を失ったままそのまま島に流される。

その島は100年以上も外界との行き来を断っている島で、住んでいる住民も一風変わった人が多かった。

毎日決まった時間に決まった行動をとる「反対のことしか話さない」画家、人を拳銃で撃ちぬくことが許されている男、地面の音を聞くのが好きな少女などなど。

そして、外の世界との違いで一番大きいのは、未来が予知できて人の言葉を話すことが出来るカカシの存在

しかしある日、未来を予知できるはずのカカシが殺される。

「なぜ、未来がわかるカカシが自分が殺されることを予測できなかったのか?」

「100年以上前から言い伝えられている『その島に欠けている物』とは何なのか?」

外界から遮断されているその島で、希少である外界の人間の伊藤がその島で体験する驚きの事とは一体何なのか?

「オーデュボンの祈り」の感想

世界観の面白さ

最初のこの本に対しての印象は、この作品の主人公である伊藤と同じであった。

島は外の世界との行き来を断っているという。その上に、カカシが喋っている!?未来が読める!?なんだよそれ!というのが抱いた印象であった。

まずその設定の世界に魅了されたのである

しかし、そんな設定だけで惰性で進み、終わるような伊坂幸太郎さんではない。

正直、個人的には序盤のストーリー自体はあまりわくわくするような類の面白さではない。淡々と島の人物の紹介が行われ、その後事件が淡々と起きていく。あまり読み進ませる力はそこにはないのかもしれない。

にもかかわらず、実際はどうなのかというと面白くて面白くて読み進んでしまうのである。

文章の面白さ

その理由は一体何なのか。それは文章自体が面白いのである。

メインのストーリーにはあまり関係ないのかもしれないが、キャラクターが引き立てられ、会話の内容が示唆に富む。そんな面白さがある

初っ端からもうシュールな面白さがある。一番印象に残ったのは、「伊藤の退職理由」である。

至ってまじめな雰囲気の中で唐突に出てくる「目が」という文字。

「目が」とそう答えたと思う。「目が疲れたんです。この五年間、毎日ディスプレイを見ていて、僕の目はぼろぼろです」

「伊藤、おまえ、幾つだ?」

「二十八ですよ」

という上司と伊藤との会話が真顔で繰り広げられる。普通、「目が」と来た時にどんな理由やねん!と突っ込んでしまいそうになるが、上司は違う。年齢を聞くのである。畳みかけられるシュール攻撃こみあげてくるような面白さがある。

お婆さんのコーナーの面白さ

この「オーデュボンの祈り」には主人公の伊藤が亡くなったお婆さんとの思い出を回想するシーンが散りばめられている。

その伊藤のお婆さんがなかなかのキャラ立ちをしており、その回想のコーナーが非常に面白いのである。

1つだけ例を挙げると、話の続きの話になったときに伊藤が思い出したものがある。

話のつづきには、たいてい嘘が混じりはじめるものだ、とこれは「エイリアン2」という映画を一緒に観た後で、祖母が言った言葉だ。「詐欺師のやり方だよ。はじめのうちは正しいこと言って安心させて、それから、相手をだましてやろうって話を大袈裟にして、つづきをくっつけちまうんだ。そういうのに騙されるんじゃないぞ。眉に唾だ。眉に唾」と言った。あの時の言い方からすると、彼女は「エイリアン」のほうは現実の話だと信じていたのかもしれない。

こういった話が本文と関連を持たせる形で挿入されている。

非常に示唆に富む、いい話が多いので、これを楽しみに読み進めるという楽しみ方もある。

鋭利な意見の集合体という考え方

伊坂幸太郎作品全体にいえることかもしれないが、主人公脇役問わず、キャラクターがいい味を出しているのはもちろんのこと、「そんなことをいつも考えて生きているのか!?」と驚くような思考力・発想力そして思慮の深さを感じさせるような会話内容が書かれていたりする。

つまり「会話を味わう」という事を他作品に比べて多く行うことができるのである。

「するめ会話」もあれば「ショートケーキ会話」もある。じっくり読んで、もう一回読み返して、それでもなお味わい深い会話もあれば、「すぐ面白い!」応酬があったりもする。

そういった文の集合体として作品が出来上がっているという見方もあるように思う。

伏線の回収が圧巻

何といってもこちら。

伏線回収がもう魔術の域に達している

読み終わって初めて気づく伏線が本当に多くある。「え?これも伏線だったの!?」という具合に。

ドミノ倒しのように連鎖していく伏線の回収は圧巻であり、乱雑に話は進むけれど、それがまるで砂鉄に磁石を近づけたときの様に整頓される。整うのである。

ある種の「アハ体験」なんじゃないかなと思う。効果は絶大で、脳がスパークし活性化する。

この体験は、騙されたと思ってまだの人は体験してみるほうがいいと思う。

豆知識・トリビアの泉

ニッパー

作中で出てくる蓄音機に耳を傾ける犬のマークというのは「ニッパー」の事である。ビクターやHMVのトレードマークとしてこの「ニッパー(犬)」が使われた。

ちなみにこの犬「ニッパー」、男の子である。

伊坂ワールド

本作品で出てくる主人公の伊藤は「重力ピエロ」や「ラッシュライフ」などの他の作品にも登場する。

「オーデュボンの祈り」の解説(ネタバレあり)

話の中で、やんわりと説明はされはしたものの、もう少し説明があったほうがいいかなというところを、解説していきます。

ネタバレを含みますので、未読の方は読まないほうが絶対いいです。あとでまた読んでみてください。

 

徳之助の子孫

作中の昔の島の状況の話、カカシの優午が誕生した話の中に、優午の製作者の親友であり、田んぼに優午を立てた人物として徳之助という人物がいました。

その徳之助の子孫として最後やんわり描かれているのが物語を通して伊藤に付き添ってきた日比野です。

伊藤が田中を救出し終えて戻ってきたとき、日比野が伊藤にタオルを貸し出したとき、その年季の入ったタオルには「徳」という文字が書かれており、祖先に「徳」の文字が入った人物がいたことが示唆されます。

もちろん徳三郎などの別人の可能性もありますが、もうここまで情報の補完でお膳立てしてもらっているので、「徳之助」と考えていいんじゃないでしょうか。

カカシ優午が未来をなかなか話さない理由

小説の終わりに回想のエピソードとして初期の優午は「未来話したがり野郎」であったことが判明し、「先のことなんて知らないほうが楽しい」という意見に愉快に笑うシーンがありました。

ここで「あぁこの意見に共感したから未来を話さなくなったのだな」と感じますが、このとき同時に優午は100年後のことについても思いめぐらせそっと笑っています

おそらく正解不正解がもしあるならこの理由が正解かもしれませんが、もう一つの話さない理由として考えられるものがあります。それは、「なかなか未来のことについて話さないがために、この物語のように話した時の効果が絶大であり、優午の思うように話の展開がすすんだ」という視点。

つまり、「100年後である伊藤が来た時代に最大の効果を発揮できるようにチャージしていた」説です。

100年前に笑いは「100年後、この作戦でいってやろうか」のニヤッと笑いだったのかもしれません。

田中の気持ち

田中は優午殺害の犯人ですが、思い返せば田中の気持ちは明らかになる前よりすでにしっかりと表現されていました

例えば何でもない田中と伊藤達とのシーン。「失ったものがもし仮に戻ったらどうする?」という質問を田中から投げかけ、答として「何が何でも失わないようにするしかないだろ?と既に言っていました。こんなところもしっかりと描かれているこの作品。さすがだと思います。

島に足りない物

島には欠けている物があると語り継がれていますが、実は奇跡を呼ぶ男伊藤は序盤ですでにかすっています。これは読み返せば「おぉ!」となること間違いなし!たぶん!

さて、足りない物というのは「音楽」だったわけですが、あるシーンで、「人間を形成するために必要なものは何だ?」と小山田に聞かれて、「音楽とのふれあい?」と答えた伊藤に、小山田は何を言っているのだ?と怒った目をしている、という部分があります。

読者は「またいい加減なことを伊藤は言っている」と思うわけですが、小山田からすると本当に「何を言っているんだ?」状態だったわけです。音楽を知らないから

ミスリードをうまく使ってきていますね。

そんなこんなで、おわりに

いかがだったでしょうか。

本当に一読はしたほうがいいと思うよくできた作品です。奥が深い作品なので、再読するのもまた楽しいですね。

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