伊坂幸太郎の本「ジャイロスコープ」の感想・解説・あらすじ

デビュー15周年の2015年に、初めての文庫オリジナル短編集として「ジャイロスコープ」が発売されました。2015年の6月に新潮文庫から出版されています。

伊坂幸太郎曰く、「『文庫のおくりもの』的なものを作ってもいいんじゃないかな、と思った」とのことです。

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伊坂幸太郎の「ジャイロスコープ」とは

「ジャイロスコープ」は新潮文庫より2015年に発売された、伊坂幸太郎の初めての文庫オリジナル短編集です。

そしてその内容としては、アンソロジーや雑誌の為に書かれていた短編が集まってできています。また、この「ジャイロスコープ」の為に書き下ろされた短編もあります

そもそもの言葉としてのジャイロスコープは、物体の姿勢であったり角加速度などを検出する装置の事です。

転じて、

軸を同じにしながら各々が驚きと意外性に満ちた個性豊かな短編小説集を指す。

とされています。

短編の内容は、

  1. 浜田青年ホントスカ
  2. ギア
  3. 二月下旬から三月上旬
  4. if
  5. 一人では無理がある
  6. 彗星さんたち
  7. 後ろの声がうるさい

の7篇で構成されており、最後の「後ろの声がうるさい」は今作のための書き下ろし作品です。

「ジャイロスコープ」のあらすじ

繰り返しになりますが、この作品は短編集です。

ですので、それぞれの短編についてのあらすじを書いていきます。

浜田青年ホントスカ

とあるスーパーの駐車場にて「相談屋」なる商売を営んでいる稲垣さん。

そこでアシスタントとして働くことになった浜田青年はさまざまな相談を受ける稲垣さんを記録に残し監視するという変わった仕事を始める。

様々な変わった相談を真剣に聞き、解決策を次々と提示していく稲垣さん。

そして浜田青年がアシスタントとして1週間が経つ時、驚きの展開が……!?

元々の話も面白い上に、さらに驚きを2.3個詰め込んだ衝撃の作品。

ギア

荒野を走るワゴン車。

その社内には運転手の他に老若男女様々な人が乗っていた。

その様々な人々が交わす会話や運転手の話の中から徐々に明らかになっていく「セミンゴ」という生命体の存在。

「セミンゴ」とは一体何なのか……!?

セミンゴシリーズの1作。

二月下旬から三月上旬

誰もいないの誰かと話す。突然現れたり消えたりする人々。

一体、どれが真実で幻想なのか……!?

慈郎と親友の坂本ジョンの四半世紀について書かれた作品。

if

バスジャック事件が起きた。不運にもそこに乗り合わせてしまった。

もし、あの時、こうしていれば……。もし、この時は、こうしていれば……。

そんな「もし」についての話に衝撃の結末が……!?

一人では無理がある

とある会社のとある仕事。一般の人には秘密裏に行われているその仕事は奥が深い。

そんな仕事の秘密自体がこのストーリーの見せ場かと思いきや、更に話は深くなる。

緊迫感のあるスタート場面と温かみのある結末に心が動かされる1作。

彗星さんたち

新幹線清掃の仕事をする二村さんは主任の鶴田さんから様々なことを学ぶ。

そして、仕事にも慣れ、その他の清掃スタッフとも馴染んだ頃、ある日鶴田さんが意識不明で入院することとなる。

鶴田さんなしで行う仕事が終わり、様々な人間ドラマを共有した時、それらが絡み合い形作るものとは……!?

後ろの声がうるさい

新幹線に乗っていた時、後ろの座席の空いているスペースに記者を名乗る男が席を移してきた。

後ろの座席にはもともと座っている男性がおり、その二人の会話が始まる。

不自然な動きをする男性に、嘘をつく記者を名乗る男。

すべての秘密が明かされる時、読者は感動せざるを得なくなる。

「ジャイロスコープ」の感想

浜田青年ホントスカ

最初、本屋で少し立ち読みをした際に、この部分の内容を少しがじりました。

もう、その少しの内容だけで、「この本は買う価値があるな」と思い、結果そのままレジに向かい買いました。

それほどに、この短編は面白さが詰まった短編です

まず、そもそも相談屋って何!? から始まり、その相談内容自体もぶっ飛んでいるので、読んでいて爽快です。そしてそれだけではないんですよね。やっぱり伏線回収をどん! と最後にしてもらえます。

この「キャラクター」「軽快かつ示唆に富む会話」「伏線回収」というのはやはりどうしても伊坂幸太郎さんに求めてしまうものであり、それがやっぱり伊坂幸太郎さんの強みであり才能であるので、そういった意味でも、この3拍子揃った短編は必読です。

相談屋の手法として「何かのせいにするというやり方がいい」というのは何かに使える気がします。

ギア

「何という話なんだ」と笑いながら読んでいました。シュールここに極まれり。

ただただ「セミンゴ」って言いたいだけなような作品ですが、スパムメールなどのギミックも使われています。ここら辺は、残り全部バケーションに通じるところがありますね。

 

「セミンゴ」の話ですが、この作品の他にも「ブギ」「ギブ」という「セミンゴ」シリーズの話が存在します。

「ブギ」

エソラのvol.4に収録されています。

「ギブ」

エソラのvol.7に収録されています。

二月下旬から三月上旬

難解すぎて何回読んだか!!難解なんかい!!

とりあえず、難しかったです。「時間の経過をいじくって多重人格ものを絡めてみた」という今作品。

時間の経過なんかは割とわかりやすくしてくれている所ではありますが、もう「これは信用していいのか? ダメなのか?」となるところが多すぎて、途中で頭が痛くなってきました(笑)

軽く読んだほうがいいですね。完璧主義すぎると前に進みません。

全体を通して、「戦争」であったり「増税」への皮肉が散りばめられています。

ちなみに坂本ジョンの死因は占い師に預言されています。その占い師スゴイ(笑)

if

よくある話なのかな? と思うじゃないですか。

こういう話って結構あるので、そのイメージのまま読み進めるんですよね。

まんまとミスリードにかかります

良い裏切りですよね。こういうのって。

ちなみに後を読むとわかりますが、このバスジャック犯は「浜田青年ホントスカ」の稲垣さんに唆されています。まんまと。

一人では無理がある

やはりこういう騙され慣れた人間が読者になると、知らず知らずに免疫が付き、メタ認知によって先を予想してしまいがちです。

この短編もそうでした。

元々のその職業の秘密はすぐにやっぱりわかりますし、最初にあの話があったので、あるキーとなる登場人物の秘密すらわかってしまいました。

ただ、それが分かっても楽しめるのは、やっぱり作家としての書き方描き方が凄いという事でしょう。

題名の理由が文字として現れた時に笑顔になります。

彗星さんたち

パウエル国務長官の話やメリー・ポピンズの引用に心打たれます。

この当たり前のことをちゃんとやるっていう事はただ、ものすごく難しいことで、なかなか思っていてもできないという事が往々にしてあります。

しかし、この清掃員の方々はそれをちゃんとやる。それがすごいと、勇気をもらえます。

この短編を読み終えた後に思うのは、これは「日常に対しての薬のセレクトショップ」みたいだな、ということでした。処方箋ではなく、「おすすめの薬おいておくから、自分に合った薬を取ってお行き」といった感じがします。押しつけがましくなく、されど、救われる。

ものすごい満ち足りた感じの読後感です。

また、最初はなんてことない話なんですが、最後の数ページにて一気に組み合わさる、というか組み合わせるんですけど、それがまたいいですよね。砂鉄を磁石で拾うように様々なところから話が引っ付いてきます。

後ろの声がうるさい

今回の為に書き下ろしなさった作品です。

もうサービス回みたいな、同窓会みたいなものですが、それだけでは終わりません。

1つの話としても十分に面白いです。ちゃんと最後にオチがあります。

同窓会的内容としては、「二月下旬から三月上旬」の坂本ジョンがでてきたり、「浜田青年ホントスカ」の稲垣さんがでてきたり、「セミンゴ」もちゃんとでてきます。

「二月下旬から三月上旬」の解説(ネタバレあり)

この「二月下旬から三月上旬」は時間の経過をいじくって多重人格ものを絡めている作品なので、難しくなってます。

そこで、確定している範囲だけを抽出して、その内容をわかりやすく紐解こうと思います

年齢を中心にまずは2月27日から、

2月27日

慈郎は20代。まだ独身。

まだ慈郎のお母さんは呆けてはいない。

中学1~2年の未来の妻を学生時代に教えているところから、学生を大学生と仮定すると年の差は5~9歳差。

高校3年生の未来の妻の年齢は17~18歳。つまり慈郎はおよそ22歳~26歳ぐらい。

申年である。

2月28日

申年Tシャツ。2月27日の話から12年後

坂本ジョンは「高齢者をだましてお金をもらう仕事」を長年続けている。(つまり、2月27日の話からは12年が経っている)

慈郎のお母さんは大概眠っていてだいぶ呆けてきている(2月27日の話からは12年が経っている)

おそらくここでは子供はいない。

つまり、慈郎は34~37歳、妻は29~30歳。

2月29日

申年(2月28日から12年がたっている)

横のワゴンの男に襲われる。

子供がいる。小学低学年と考えると息子は6~9歳。

慈郎・ジョンともに40代半ば過ぎ。46歳~49歳。妻は41~42歳。

3月1日

しわだらけの手。坂本ジョンの昔の恨みで滅多打ちにされる。

なじみ深い顔(おそらく息子)に助けられる。息子は20歳くらい。

母が消え、妻が消え、息子だけが残った。(もうすでに妻は3年前に死んでいる

申年(2月29日から12年がたっている)慈郎は58~61歳。妻は50~51歳で亡くなっている。

3月2日

ジョンが死亡。15年前に妻が死亡(つまり「3月1日」では3年前に妻が亡くなっている)

慈郎は70~73歳。

3月3日

慈郎まだ存命。82~85歳。

その他解説(坂本ジョンは存在するのか)

存在します。

幻想のように思われがちですが、ちゃんと見えなかったりするときは理由が書かれていたりします

(例:バックミラーの角度の問題なのか、一瞬、彼の姿が見つけられなかった)

また、今作の最後の作品(後ろの声がうるさい)にも登場します。

ここで、ジョンは胃腸炎で死ぬことを予言されています(ジョンは生焼け肉の細菌感染症で死にます)

読み解き方

慈郎がすぐ幻覚を見るからと言って、すべてを疑うと、よくわからなくなります。

なので、まずは書かれているままを読み、どこかに繰り返されている部分があればほぼそれが真実です。

(例:2月27日に登場するのが20歳を超えた妻ではなく女子高生なのはジョンも認めている。さらに20代の女性は夢想だと書かれている。)

おわりに

さてそんなこんなで、「ジャイロスコープ」については終わりたいと思います。

「ジャイロスコープ」は読みごたえのある短編集なので、まだの方にはオススメです。

以上、「ジャイロスコープ」のあらすじ・感想と「二月下旬から三月上旬」の解説でした。

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