【おすすめ】伊坂幸太郎さんの小説を出版された順にまとめる【新刊】
目次
- 1 伊坂幸太郎とは
- 2 ①オーデュボンの祈り(2000年12月)
- 3 ②ラッシュライフ(2002年7月)
- 4 ③陽気なギャングが地球を回す(2003年1月)
- 5 ④重力ピエロ(2003年4月)
- 6 ⑤アヒルと鴨のコインロッカー(2003年11月)
- 7 ⑥チルドレン(2004年5月)
- 8 ⑦グラスホッパー(2004年7月)
- 9 ⑧死神の精度(2005年6月)
- 10 ⑨魔王(2005年10月)
- 11 ⑩砂漠(2005年12月)
- 12 ⑪週末のフール(2006年3月)
- 13 ⑫陽気なギャングの日常と襲撃(2006年5月)
- 14 ⑬フィッシュストーリー(2007年1月)
- 15 ⑭ゴールデンスランバー(2007年11月)
- 16 ⑮実験4号(2008年4月)
- 17 ⑯モダンタイムズ(2008年10月)
- 18 ⑰あるキング(2009年8月~)
- 19 ⑱SOSの猿(2009年11月)
- 20 ⑲オー!ファーザー!(2010年3月)
- 21 ⑳バイバイ、ブラックバード(2010年6月)
- 22 ㉑マリアビートル(2010年9月)
- 23 ㉒PK(2012年3月)
- 24 ㉓夜の国のクーパー(2012年5月)
- 25 ㉔残り全部バケーション(2012年12月)
- 26 ㉕ガソリン生活(2013年3月)
- 27 ㉖死神の浮力(2013年7月)
- 28 ㉗首折り男のための協奏曲(2014年1月)
- 29 ㉘アイネクライネナハトムジーク(2014年9月)
- 30 ㉙キャプテンサンダーボルト(2014年9月)
- 31 ㉚火星に住むつもりかい?(2015年2月)
- 32 ㉛ジャイロスコープ(2015年6月)
- 33 ㉜陽気なギャングは三つ数えろ(2015年10月)
- 34 ㉝サブマリン(2016年3月)
- 35 おわりに
単行本が出版された順に、作家伊坂幸太郎さんの本を並べてみました。
伊坂幸太郎とは
1971年生まれの日本の小説家です。
東北大学を卒業し、その後システムエンジニアとして働きながら文学賞に応募し、2000年に「オーデュボンの祈り」で新潮ミステリー倶楽部賞を受賞し、同時に29歳で専業作家としてデビューします。
2003年の「重力ピエロ」では直木賞候補になり、注目され、次の作品の「アヒルと鴨のコインロッカー」で2004年に第25回吉川英治文学新人賞を受賞します。
同年2004年に「死神の精度」で日本推理作家協会賞短編部門を受賞します。
そして、2008年「ゴールデンスランバー」。この作品が第5回本屋大賞と同時に、第21回山本周五郎賞を受賞しています。この「ゴールデンスランバー」より後が伊坂幸太郎の第2期と言われています。
持ち味は何といっても「驚き溢れる伏線回収」や「示唆に富む内容」そして「個性豊かなキャラクターや軽快な会話」などなどです。
その他にも良さはもちろんありますが、一般的に言われるのはその辺りです。
ちなみに仙台在住で、よく仙台に関係する地名やスポットなどが出てきます。
①オーデュボンの祈り(2000年12月)
デビュー作であり、新潮ミステリー俱楽部賞を受賞した作品。
コンビニ強盗に失敗した伊藤は、警察に追われる途中で意識を失い、見知らぬ島で目を覚ます。仙台沖に浮かぶその島は150年もの間、外部との交流を持たない孤島だという。そこで人間たちに崇拝されているのは、言葉を話し、未来を予知するというカカシ「優午」だった。しかしある夜、何者かによって優午が「殺害」される。なぜカカシは、自分の死を予測できなかったのか。「オーデュボンの話を聞きなさい」という優午からの最後のメッセージを手掛かりに、伊藤は、その死の真相に迫っていく。
ポイントは「未来が分かるカカシが殺される」という謎です。
内容が濃く、淡々と進む内容の中にも体にしみ込むような文章がありますし、もちろんその設定とストーリーを楽しむという王道の楽しみ方もできます。
とにかく独特の世界観であり、ミステリーとしてというよりはこの枠にはまらない面白さを堪能してください。
②ラッシュライフ(2002年7月)
「伊坂幸太郎」という作家が注目されるきっかけになった作品です。
2009年には堺雅人や寺島しのぶなどのキャスト陣で映画化されました。
泥棒を生業とする男は新たなカモを物色する。父に自殺された青年は神に憧れる。女性カウンセラーは不倫相手との再婚を企む。職を失い家族に見捨てられた男は野良犬を拾う。幕間には歩くバラバラ死体登場――。並走する四つの物語、交錯する十以上の人生、その果てに待つ意外な未来。不思議な人物、機知に富む会話、先の読めない展開。巧緻な騙し絵のごとき現代の寓話の幕が、今あがる。
群像劇であり、5つの独立する物語が驚くような形でつながっていくという様を見せつけられる作品です。
また、この作品ででてくる「黒澤」という登場人物は「重力ピエロ」や「フィッシュストーリー」にも出てきます。
群像劇が好きな人にオススメできます。
③陽気なギャングが地球を回す(2003年1月)
2006年に大沢たかお・佐藤浩市・松田翔太などの豪華キャストで映画化さてれいます。
もともとはデビュー前にサントリーミステリー大賞の佳作を取った作品である「悪党たちが目にしみる」がもとになっており、その作品を大幅に改訂する形で出版されました。
嘘を見抜く名人、天才スリ、演説の達人、精確な体内時計を持つ女。この四人の天才たちは百発百中の銀行強盗だった……はずが、思わぬ誤算が。せっかくの「売上」を、逃走中に、あろうことか同じく逃走中の現金輸送車襲撃犯に横取りされたのだ! 奪還に動くや、仲間の息子に不穏な影が迫り、そして死体も出現。映画化で話題のハイテンポな都会派サスペンス!
シリーズもののエンターテイメント小説ですが、このシリーズはものすごく面白いです。
続編に「陽気なギャングの日常と襲撃」そして3作目の「陽気なギャングは三つ数えろ」があります。
そもそのもキャラクター設定自体がもう楽しさに溢れていますよね。「人間嘘発見器」って何!?
ずっと会話がコメディですし、驚くほどに読んでいて飽きさせません。知らず知らずの内に、読み終えている事でしょう。ちょっと疲れた時なんかに読んでみると面白いです。
④重力ピエロ(2003年4月)
直木賞や本屋大賞などにノミネートされた作品であり、伊坂幸太郎の名をより広く知らしめた作品です。
2009年に加瀬亮・岡田将生らのキャストで映画化されています。
兄は泉水、二つ下の弟は春、優しい父、美しい母。家族には、過去に辛い出来事があった。その記憶を抱えて兄弟が大人になった頃、事件は始まる。連続放火と、火事を予見するような謎のグラフィティアートの出現。そしてそのグラフィティアートと遺伝子のルールの奇妙なリンク。謎解きに乗り出した兄が遂に直面する圧倒的な真実とは――。溢れくる未知の感動、小説の奇跡が今ここに。
「春が二階から落ちてきた。」という印象的な1文から始まるこの作品。
重い内容を取り扱っているにも関わらず、軽く読むことが出来ます。
以前に書いた記事です→「伊坂幸太郎 重力ピエロ」
引用の多さは賛否両論あるかと思いますが、そこがまた味であり、個人的には凄くいい小説だと思います。
⑤アヒルと鴨のコインロッカー(2003年11月)
2007年に濱田岳・瑛太らのキャストで映画化されました。
この作品で2004年に第25回吉川英治文学新人賞を受賞しています。
引っ越してきたアパートで出会ったのは、悪魔めいた印象の長身の青年。初対面だというのに、彼はいきなり「一緒に本屋を襲わないか」と持ちかけてきた。彼の標的は――たった1冊の広辞苑!? そんなおかしな話に乗る気などなかったのに、なぜか僕は決行の夜、モデルガンを手に書店の裏口に立ってしまったのだ! 清冽な余韻を残す傑作ミステリ。
「一緒に本屋を襲わないか?」なんておそらくこの先生きていても言われることはないと思うようなことなどが作中でいろいろ出てきます。
2つのストーリーが交互に描かれていきますが、そのストーリーが交わるときは圧巻です。
「神様を閉じ込め」に行ったりします。
以前に書いた記事です→「伊坂幸太郎 アヒルと鴨のコインロッカー」
⑥チルドレン(2004年5月)
「短編集のふりをした長編小説」と伊坂幸太郎さん本人はこの「チルドレン」について語っています。
5つの短編が収められていまして、それらか今作でもつながります。
「俺たちは奇跡を起こすんだ」独自の正義感を持ち、いつも周囲を自分のペースに引き込むがなぜか憎めない男、陣内。彼を中心にして起こる不思議な事件の数々――。何気ない日常に起こった5つの物語が、一つになったとき、予想もしない奇跡が降り注ぐ。
続編に2016年の「サブマリン」があります。
むちゃくちゃな論理を振り回しまくる陣内というキャラクターが光り輝いており、陣内によって物語に引き込まれます。
軽い感じで読みやすいです。
⑦グラスホッパー(2004年7月)
分類ができない新しいジャンルの作品。
キャラ立ちした登場人物や軽妙な会話などの伊坂幸太郎ワールドを軸として、次々と変わる展開に知らず知らず引き込まれていきます。
2015年に生田斗真・浅野忠信・山田涼介等のキャストで映画化されました。
「復讐を横取りされた。嘘?」元教師の鈴木は、妻を殺した男が車に轢かれる瞬間を目撃する。
どうやら「押し屋」と呼ばれる殺し屋の仕業らしい。
鈴木は正体を探るため、彼の後を追う。一方、自殺専門の殺し屋・鯨、ナイフ使いの若者・蝉も「押し屋」を追い始める。
それぞれの思惑のもとに――「鈴木」「鯨」「蝉」、三人の思いが交錯するとき、物語は唸りをあげて動き出す。
疾走感溢れる筆致で綴られた、分類不能の「殺し屋」小説!
物騒な話ですが、ハマります。
⑧死神の精度(2005年6月)
日本推理作家協会賞短編部門を受賞した作品。
7日間の調査の後に対象者の死を見定める死神である「千葉」
そんな千葉が出会う6つの人生について描かれています。
CDショップに入りびたり、苗字が町や市の名前であり、受け答えが微妙にずれていて、素手で他人に触ろうとしない―そんな人物が身近に現れたら、死神かもしれません。一週間の調査ののち、対象者の死に可否の判断をくだし、翌八日目に死は実行される。クールでどこか奇妙な死神・千葉が出会う六つの人生。
さすがは伊坂幸太郎さんの作品なので、それぞれの短編が最後にはつながります。
デスノートなんかとはまたちょっと違う「死神」と「死」に関する物語。
⑨魔王(2005年10月)
伊坂幸太郎さん自身が「自分の読んだことのない小説が読みたい。そんな気持ちで書きました」と語る作品です。
この本には「魔王」と一緒に、主人公の弟の5年後を描いた「呼吸」という作品も収録されており、2本立てになっています。
個人的にはもっと魔王の部分を書いてほしかったです。もったいなさ過ぎる。2冊に分けてほしかったです。
会社員の安藤は弟の潤也と2人で暮らしていた。自分が念じれば、それを相手が必ず口に出すことに偶然気がついた安藤は、その能力を携えて、1人の男に近づいていった。5年後の潤也の姿を描いた「呼吸」とともに綴られる、何気ない日常生活に流されることの危うさ。新たなる小説の可能性を追求した物語。
世の中の流れにどう抗っていくのかという部分に超能力というSF風味を入れ、示唆に富む会話文を織り交ぜながら仕上がっている作品。
一言で言うと、ぜひ読んでみてほしい作品。
⑩砂漠(2005年12月)
この辺りまでが伊坂幸太郎第1期と言われています。
入学した大学で出会った5人の男女。ボウリング、合コン、麻雀、通り魔犯との遭遇、捨てられた犬の救出、超能力対決…。共に経験した出来事や事件が、互いの絆を深め、それぞれ成長させてゆく。自らの未熟さに悩み、過剰さを持て余し、それでも何かを求めて手探りで先へ進もうとする青春時代。二度とない季節の光と闇をパンクロックのビートにのせて描く、爽快感溢れる長編小説。
現実をベースにしているのに現実離れした内容なのがやっぱり個人的には魅力の1つなので、今作もそういった点では期待を裏切りません。
現実離れした作中の「現実」が私たちの現実を濃いものに書き換えていってくれる、そんな作品です。
⑪週末のフール(2006年3月)
8つの作品が集まっている連作短編集です。
八年後に小惑星が衝突し、地球は滅亡する。そう予告されてから五年が過ぎた頃。当初は絶望からパニックに陥った世界も、いまや平穏な小康状態にある。仙台北部の団地「ヒルズタウン」の住民たちも同様だった。彼らは余命三年という時間の中で人生を見つめ直す。家族の再生、新しい生命への希望、過去の恩讐。はたして終末を前にした人間にとっての幸福とは?今日を生きることの意味を知る物語。
暗いテーマの話ですが、その暗さが感じられなくなるようなタッチにてまとめ上げられています。
「許す」という事について考えさせられる作品です。
個人的に、このそれぞれの短編の題名の流れにお笑い芸人の「ハライチ」のネタを思い起こされました(笑)
⑫陽気なギャングの日常と襲撃(2006年5月)
来ました。
伊坂幸太郎さんの作品「陽気なギャングが地球を回す」の続編です。
嘘を見抜く名人は刃物男騒動に、演説の達人は「幻の女」探し、正確な体内時計を持つ女は謎の招待券の真意を追う。そして天才スリは殴打される中年男に遭遇――天才強盗四人組が巻き込まれた四つの奇妙な事件。しかも、華麗な銀行襲撃の裏に「社長令嬢誘拐」がなぜか連鎖する。知的で小粋で贅沢な軽快サスペンス
ギャングシリーズが初めての方はこれが2作目になりますので、前作の「陽気なギャングが地球を回す」から読んだほうがいいです。
伊坂幸太郎さん自身も「現実離れした内容になりました」とおっしゃっているように、ダイ・ハード的展開です。楽しむための本です。
⑬フィッシュストーリー(2007年1月)
4つの中編が書かれている本です。
この作品も2009年に伊藤淳史・高良健吾・多部未華子らのキャストで映画化されています。
最後のレコーディングに臨んだ、売れないロックバンド。「いい曲なんだよ。届けよ、誰かに」テープに記録された言葉は、未来に届いて世界を救う。時空をまたいでリンクした出来事が、胸のすくエンディングへと一閃に向かう瞠目の表題作ほか、伊坂ワールドの人気者・黒澤が大活躍の「サクリファイス」「ポテチ」など、変幻自在の筆致で繰り出される中篇四連打。爽快感溢れる作品集。
先に「ラッシュライフ」という作品を読んだほうがより魅力的に感じられる作品かもしれないです。それは今作で出てくる「黒澤」というキャラクターが最初に登場するのが「ラッシュライフ」だからです。
めんどくさければ、まぁでもどっちでもいいかもしれない。
表題の中編「フィッシュストーリー」はやはりいい作品でした。スマート。
⑭ゴールデンスランバー(2007年11月)
この作品前後で、読者が伊坂幸太郎さんに求めているであろう「伏線とその回収」「変わった登場人物」「楽しい会話」といったものが、すべていやになったと伊坂幸太郎さんご自身が話されています。
ここからが伊坂幸太郎第2期で、「自分はこういう小説が好きだけれど、読者は求めていないかもなぁ」というものを書かれていった時期です。
実に2年ぶりの書き下ろし長編です。
本屋大賞だけでなく、山本周五郎賞まで取り、直木賞の選考を辞退した作品で、この時点でも伊坂幸太郎さんの集大成的作品とされています。
仙台で金田首相の凱旋パレードが行われている、ちょうどその時、青柳雅春は、旧友の森田森吾に、何年かぶりで呼び出されていた。昔話をしたいわけでもないようで、森田の様子はどこかおかしい。訝る青柳に、森田は「おまえは、陥れられている。今も、その最中だ」「金田はパレード中に暗殺される」「逃げろ!オズワルドにされるぞ」と、鬼気迫る調子で訴えた。と、遠くで爆音がし、折しも現れた警官は、青柳に向かって拳銃を構えた―。精緻極まる伏線、忘れがたい会話、構築度の高い物語世界―、伊坂幸太郎のエッセンスを濃密にちりばめた、現時点での集大成。
500ページを超えるほどの、ものすごいボリューミーな大作。
首相爆殺の濡れ衣を着せられた男の逃亡劇で、伏線に次ぐ伏線で、伏線が膨らんでいきます。
⑮実験4号(2008年4月)
Theピーズの名曲『実験4号』に捧げる作品で、小説(伊坂幸太郎)と映像(山下敦弘)がコラボします。
舞台は今から100年後、温暖化のため火星移住計画の進んだ地球―。火星へ消えたギタリストの帰りを待つバンドメンバーの絆の物語(伊坂幸太郎『後藤を待ちながら』)と、火星へ旅立つ親友を見送る小学生たちの最後の2日間(山下敦弘『It’s a small world』)が、いま爽やかに交錯する。熱狂的人気を誇る二人が場所やキャラクターをリンクさせた奇跡のコラボレーション作品集。Theピーズの名曲『実験4号』に捧げる、青春と友情と感動の物語。
本は98ページです。
⑯モダンタイムズ(2008年10月)
伊坂幸太郎作品の「魔王」の続編に当たる作品で、「魔王」の世界の50年後が描かれています。
そのため「魔王」はあらかじめ読んでおいたほうがいいと思います。
恐妻家のシステムエンジニア・渡辺拓海が請け負った仕事は、ある出会い系サイトの仕様変更だった。けれどもそのプログラムには不明な点が多く、発注元すら分からない。そんな中、プロジェクトメンバーの上司や同僚のもとを次々に不幸が襲う。彼らは皆、ある複数のキーワードを同時に検索していたのだった。
キャッチフレーズは「検索から、監視が始まる」
⑰あるキング(2009年8月~)
第2期感がものすごい出ている気がします。
山田王求。プロ野球チーム「仙醍キングス」を愛してやまない両親に育てられた彼は、超人的才能を生かし野球選手となる。本当の「天才」が現れたとき、人は“それ”をどう受け取るのか―。群像劇の手法で王を描いた雑誌版。シェイクスピアを軸に寓話的色彩を強めた単行本版。伊坂ユーモアたっぷりの文庫版。同じ物語でありながら、異なる読み味の三篇すべてを収録した「完全版」。
伊坂幸太郎ファンの私からするとあまり好きではなかった作品ですが、全然ファンではない人にひょんなことから貸し出すことになり、その貸し出した本が帰ってきたときの評価は「面白かった」でした。
テイストはやっぱり今までと違うと思います。
⑱SOSの猿(2009年11月)
漫画家五十嵐大介との競作企画によって誕生した作品で、「エクソシスト」と「西遊記」を掛け合わせるというアイデアをもとに書かれた作品です。
三百億円の損害を出した株の誤発注事件を調べる男と、ひきこもりを悪魔秡いで治そうとする男。奮闘する二人の男のあいだを孫悟空が自在に飛び回り、問いを投げかける。「本当に悪いのは誰?」はてさて、答えを知るのは猿か悪魔か?そもそも答えは存在するの?面白くて考えさせられる作品。
こちらも前作「あるキング」と同じく、ファンからの評価はあまりだった作品です。
⑲オー!ファーザー!(2010年3月)
比較的本当は初期に書かれた作品であるとのこと。1期最後の作品ともいわれています。
2014年に岡田将生・忽那汐里等のキャストで映画化されています。
父親が四人いる!?高校生の由紀夫を守る四銃士は、ギャンブル好きに女好き、博学卓識、スポーツ万能。個性溢れる父×4に囲まれ、息子が遭遇するは、事件、事件、事件―。知事選挙、不登校の野球部員、盗まれた鞄と心中の遺体。多声的な会話、思想、行動が一つの像を結ぶとき、思いもよらぬ物語が、あなたの眼前に姿を現す。
個性あるキャラクターに圧倒的な伏線数で楽しむことが出来るという、持ち味を存分に発揮した作品です。
その回収には粗さがみられるものの、伏線の細かさには驚かされます。
⑳バイバイ、ブラックバード(2010年6月)
太宰治の未完の小説「グッド・バイ」のオマージュとして書かれた作品です。
その為、基本設定の「何人もの女性と同時に付き合っていた男が、その関係を清算する為に、全く恋愛関係になかった女性の協力を得て一人ひとりを訪ねて歩く」という部分は同じになっています。
星野一彦の最後の願いは何者かに“あのバス”で連れていかれる前に、五人の恋人たちに別れを告げること。そんな彼の見張り役は「常識」「愛想」「悩み」「色気」「上品」―これらの単語を黒く塗り潰したマイ辞書を持つ粗暴な大女、繭美。なんとも不思議な数週間を描く、おかしみに彩られた「グッド・バイ」ストーリー。
恋人5人のキャラクターがまた違うので、飽きずに楽しむことが出来ます。そして、通しで付き添われる繭美という女性のキャラがまたものすごいので、その点でも作品に楽しさを添えてくれています。
あえて描かれていないところが多いので、そこに対して妄想を膨らませながら読むのがベストです。
また、こんなものもあります。
太宰治との対比やバスの行先についてなどの内容です。
㉑マリアビートル(2010年9月)
「昔みたいな小説が書けないと思われたら悔しい」というところから書かれた作品。
「グラスホッパー」の続編であり、大学読書人大賞を受賞しています。
幼い息子の仇討ちを企てる、酒びたりの元殺し屋「木村」。優等生面の裏に悪魔のような心を隠し持つ中学生「王子」。闇社会の大物から密命を受けた、腕利き二人組「蜜柑」と「檸檬」。とにかく運が悪く、気弱な殺し屋「天道虫」。疾走する東北新幹線の車内で、狙う者と狙われる者が交錯する――。
限られたこの新幹線という空間の中で、これほどまでに話が進んでいくというところにも驚きでありつつ、無数にいる登場人物のキャラが立っていて、ドキドキと共に面白いテイスト。
ものすごいオススメです。「グラスホッパー」と共にぜひ!
㉒PK(2012年3月)
本としてのPKは「PK」「超人」「密使」という3編が集まってできています。
ただ、連作中編集ではなく、”割り切れないドミノ”になっています。ただ、話は同一の世界観です。
人は時折、勇気を試される。落下する子供を、間一髪で抱きとめた男。その姿に鼓舞された少年は、年月を経て、今度は自分が試される場面に立つ。勇気と臆病が連鎖し、絡み合って歴史は作られ、小さな決断がドミノを倒すきっかけをつくる。三つの物語を繋ぐものは何か。読み解いた先に、ある世界が浮かび上がる。
テイストの全く違う中編が集まっているので、1冊で3つのテイストが楽しめます。
㉓夜の国のクーパー(2012年5月)
伊坂幸太郎「怖いこと三部作」の内の一作「戦争」
猫が語り始める長編ファンタジーです。
目を覚ますと見覚えのない土地の草叢で、蔓で縛られ、身動きが取れなくなっていた。仰向けの胸には灰色の猫が座っていて、「ちょっと話を聞いてほしいんだけど」と声を出すものだから、驚きが頭を突き抜けた。「僕の住む国では、ばたばたといろんなことが起きた。戦争が終わったんだ」猫は摩訶不思議な物語を語り始める―これは猫と戦争、そして世界の秘密についてのおはなし。
初期の第1期の作品とはまたちょっと違う感じではありますが、この作品にはこの作品の良さがあります。
「戦争」という事について考えさせられながら、一つの「物語」を堪能できます。
㉔残り全部バケーション(2012年12月)
5作の短編からなる連作短編集です。
伊坂幸太郎さん自身も短編に関してはあまり初期から変わっていないとおっしゃっているように、伊坂幸太郎さんの初期から持っている強みがいかんなく発揮されています。
当たり屋、強請りはお手のもの。あくどい仕事で生計を立てる岡田と溝口。ある日、岡田が先輩の溝口に足を洗いたいと打ち明けたところ、条件として“適当な携帯番号の相手と友達になること”を提示される。デタラメな番号で繋がった相手は離婚寸前の男。かくして岡田は解散間際の一家と共にドライブをすることに―。その出会いは偶然か、必然か。裏切りと友情で結ばれる裏稼業コンビの物語。
「友達になろうよ」というメールに返信しちゃうお父さんとそれを「いけいけ!」と教唆するお母さんなど、最初からぶっ飛んでいます。
こういうテンポ感の作品はやっぱり気軽で、面白いですね。
㉕ガソリン生活(2013年3月)
「実験的」な作品でありながら、「誰が読んでも楽しめる」といったものを目指したといわれる作品です。書く難易度が高く、その分伊坂幸太郎さんの自信作になったとされる作品です。
のんきな兄・良夫と聡明な弟・亨がドライブ中に乗せた女優が翌日急死!パパラッチ、いじめ、恐喝など一家は更なる謎に巻き込まれ…!?車同士がおしゃべりする唯一無二の世界で繰り広げられる、仲良し家族の冒険譚!愛すべきオフビート長編ミステリー。
ほのぼのとした内容ですが、後半の伏線回収力は流石です。
㉖死神の浮力(2013年7月)
伊坂幸太郎「怖いこと三部作」の内の一作「自分の死、大事な人の死」
伊坂幸太郎さんの人気作品の「死神の精度」
その「死神の精度」は連作短編小説ですが、今回は長編です。
娘を殺された山野辺夫妻は、逮捕されながら無罪判決を受けた犯人の本城への復讐を計画していた。そこへ人間の死の可否を判定する“死神”の千葉がやってきた。千葉は夫妻と共に本城を追うが―。展開の読めないエンターテインメントでありながら、死に対峙した人間の弱さと強さを浮き彫りにする傑作長編。
あの「千葉」がどのように長編では動くのかが見どころ(特に変わりありません)
㉗首折り男のための協奏曲(2014年1月)
独立した不思議な雰囲気の7つの短編を加筆によってつながりある短編集にした本。
「首折り男」に度肝を抜かれ、「初恋」に惑って「怪談」に震え、「昆虫」は覗き見され、「合コン」では泣き笑い。「悪意」が黒澤を襲い、父は子のため「復讐者」となる―全7編、胸元えぐる豪速球から消える魔球まで出し惜しみなく投じられた「ネタ」のアンサンブル!
伊坂幸太郎さんの人気キャラクターの「黒澤」が出てきます。
短編だけあって笑いあり読み応えありのさすがの伊坂幸太郎ワールドです。
㉘アイネクライネナハトムジーク(2014年9月)
こちらも短編集ですが、こちらは最後まで計算された緻密な連作短編集になっています。
題名はモーツァルトの曲にちなんでおり、「ある小さな夜の曲」という意味です。
ここにヒーローはいない。さあ、君の出番だ。奥さんに愛想を尽かされたサラリーマン、他力本願で恋をしようとする青年、元いじめっこへの復讐を企てるOL…。情けないけど、愛おしい。そんな登場人物たちが作り出す、数々のサプライズ。
ほっこりします。
㉙キャプテンサンダーボルト(2014年9月)
阿部和重さんとの合作です。
人生に大逆転はあるのか?
小学生のとき、同じ野球チームだった二人の男。
二十代後半で再会し、一攫千金のチャンスにめぐり合った彼らは、
それぞれの人生を賭けて、世界を揺るがす危険な謎に迫っていく。
東京大空襲の夜、東北の蔵王に墜落したB29と、
公開中止になった幻の映画。そして、迫りくる冷酷非情な破壊者。
すべての謎に答えが出たとき、動き始めたものとは――
伊坂幸太郎さんの良さはあまり引き出されておらず、イマイチかもしれません。
㉚火星に住むつもりかい?(2015年2月)
伊坂幸太郎「怖いこと三部作」の内の一作。「魔女狩り的な世界」
住人が相互に監視し、密告する。危険人物とされた人間はギロチンにかけられる―身に覚えがなくとも。交代制の「安全地区」と、そこに配置される「平和警察」。この制度が出来て以降、犯罪件数が減っているというが…。今年安全地区に選ばれた仙台でも、危険人物とされた人間が、ついに刑に処された。こんな暴挙が許されるのか?そのとき!全身黒ずくめで、謎の武器を操る「正義の味方」が、平和警察の前に立ちはだかる!
伊坂幸太郎さんの作品の中ではまた「新機軸」ではないでしょうか。
もうキャリアもあるのにどこまでも挑戦していく姿は凄いと思います。
㉛ジャイロスコープ(2015年6月)
7つの短編が集まった短編集です。
デビュー15周年を記念した初の文庫オリジナル短編集です。
「文庫のおくりもの」的なものを作ってもいいんじゃないかと思ったと伊坂幸太郎さんは仰っています。
助言あります。スーパーの駐車場にて“相談屋”を営む稲垣さんの下で働くことになった浜田青年。人々のささいな相談事が、驚愕の結末に繋がる「浜田青年ホントスカ」。バスジャック事件の“もし、あの時…”を描く「if」。謎の生物が暴れる野心作「ギア」。洒脱な会話、軽快な文体、そして独特のユーモアが詰まった七つの伊坂ワールド。書下ろし短編「後ろの声がうるさい」収録。
それぞれ、全く違うテイストの作品が集まっています。
その中でも、「相談屋」なる職業が出てくる「浜田青年ホントスカ」という短編はものすごく面白いです。
最後に15周年を記念しての伊坂幸太郎さんへのインタビューが書かれているのですが、それだけでも買う価値があります。
㉜陽気なギャングは三つ数えろ(2015年10月)
ギャングシリーズ3作目!!
9年ぶりにあの天才強盗4人組が帰ってきます。
陽気なギャング一味の天才スリ久遠は、消えたアイドル宝島沙耶を追う火尻を、暴漢から救う。だが彼は、事件被害者のプライバシーをもネタにするハイエナ記者だった。正体に気づかれたギャングたちの身辺で、当たり屋、痴漢冤罪などのトラブルが頻発。蛇蝎のごとき強敵の不気味な連続攻撃で、人間嘘発見器成瀬ら面々は断崖に追いつめられた! 必死に火尻の急所を探る四人組に、やがて絶体絶命のカウントダウンが!
このシリーズの面白さは前2作を読んでいればもう自明です。
㉝サブマリン(2016年3月)
伊坂幸太郎さんの作品「チルドレン」の続編です。今度は長編で。
「続編を書くつもりはなかったけれど、『チルドレン』が面白かったと思ってくれた読者がいたなら、新しい物語に長編で挑戦しよう」というのが今回の「サブマリン」執筆の際に伊坂幸太郎さんが思ったことらしいです。
『チルドレン』から十数年後。家裁調査官・陣内と武藤のもとに、無免許運転で人を死なせた少年が送致されてくる。背景には過去の交通事故が関わって…。傍若無人ながら憎めないヒーロー。陣内の言動にわくわくがとまらない。
陣内ファンには必読の1冊です。
おわりに
こうして出版された順に並べてみると、その作風の変遷であったり、作家「伊坂幸太郎」の歩みが分かってそれはそれで感慨深いです。
これほどまでに名作を出せる作家は珍しいと思いますし、強みを持ちながらそれだけにとどまらない感じが、これからの更なる飛躍を感じさせます。
今後、どういう流れでどういう作品が出てくるのか、1ファンとして楽しみです。