桃太郎ーかつて傷太郎と呼ばれた男ー【唐突にきな臭くなる童話】

昔々、あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。おじいさんは山へ柴刈りへ、おばあさんは川へ洗濯へ行きました。

すると、おばあさんが川で洗濯をしている時に、ドンブラコ、ドンブラコと大きな桃が流れてきました。

「なんという大きな桃じゃ。持って帰ろう」とおばあさんは家へもってかえりました。

おばあさんはおじいさんが帰ってきた後、その大きな桃を切ろうとしました。すると中から大きな赤ん坊が出てきたのです。しかし、あまりに大きな桃だったために、切るときに勢いが余ってしまい、赤ん坊の顔に傷を作ってしまいました。

深くえぐってしまった顔の傷は何とか止血はできたものの、後々になっても傷跡が治りませんでした。

おばあさんがあの時、慎重に切っていれば、何かが変わっていたのかもしれません。

桃から生まれたため、桃太郎と名付けられた桃太郎は幼児の域を脱してまだ小さいけれど、活発に遊びまわるようになりました。

そしてそれは起こりました。近くの子供たちの集団に出くわしたのです。

子供たちは桃太郎を見つけ近寄ってきました。

桃太郎は村でも一番山に近い外れの家で育てられていたため、山で遊ぶことが多く、この時が子供たちとの初対面でした。桃太郎は年の近い人をはじめて見たため、うれしさのあまり、飛び跳ねながらその集団に近づいて行きました。

「初めまして、僕は桃太郎と言います」村の人が家にやってきたときにする挨拶をここでもしました。

すると子供たちは「おい! なんだよその顔は!」と桃太郎の顔を指さし笑います。子供たちにとっては普通とはすこし違うという事が大きな違いに思えたのでしょう。

その日から桃太郎にとっての地獄の日々が始まります。

子供たちは桃太郎の家のおじいさんとおばあさんがいないころを見計らって、桃太郎のもとへと駆け付けます。そして、「傷太郎! 傷太郎!」と名前を少し変えて呼び冷やかしにやってきました。

最初はその程度だったのですが、桃太郎がもう関わらないでおこうと距離をしっかりと置き、無視するように心がけていると、今度は泥を投げつけられたり、手を出してきたりと、その桃太郎への攻撃はエスカレートしていきました。

ある日、「どうしたんだい! 桃太郎!」とおばあさんが桃太郎が泥だらけで傷だらけになっているのを見て、尋ねてきました。無理もありません。しかし桃太郎はおじいさんとおばあさんが村からの支え無くしては生活できないという事を知っていたため、「森に遊びに行ってけがをしたんだ」とうそをつきました。それからというもの桃太郎はそのうそを多用するようになりました。

そんなある日、村に鬼が現れるようになりました。それで村のみんなが困っている、という話が桃太郎のもとにも届きました。しかし桃太郎はそんなことは気にせず、一人にならないようにおじいさんの柴刈りを手伝うようになりました。おじいさんを手伝うことが出来るようになり始めてからは、村の子供たちと会う機会などめっきり減り、桃太郎の表情に明るさが戻ってきました。

しかし、そんな日は続かない物です。山菜採りにおじいさんとおばあさんが出かけた際に悲劇は起こりました。土砂崩れです。その日、二人は桃太郎のもとには帰って来ませんでした。

村の家庭に養子に行かざるを得なくなった桃太郎にはかつての悪夢がよみがえってきました。地獄へと帰ってきてしまいました。

そんな桃太郎の日々に終止符を打ったのは皮肉なことに鬼たちでした。村へと攻めてきたのです。

捕まりかけた人間から「鬼に食われるくらいなら死んだほうがましだ」と子供たちも含めて自ら命を絶っていきました。

そして家で怯えていた桃太郎と家に入ってきた鬼が出会いました。

桃太郎は「僕を食べるのですか?」と鬼に問うてみました。

「人間さんたちはそう思っているみたいだがなぁ、俺らは人間なんて食わねえよ。にも関わらず、助けようと思った命まで果てていきやがった」

「じゃあなぜ村を攻めてきたのですが?」

その質問に鬼はパーマがかかった髪をかきむしりながら答えた。

「俺らも好きで攻めたわけじゃない。お前らが鬼を悪だと決めつけて殺しにかかってくるから、こうするしかなかったんだよ」

「……」

「おい、小僧、どうする? 殺すつもりはねぇから一緒に来ねえか? 皆殺しなんて目覚めが悪くなっちまう」そう鬼は悲しそうに言った。だから死なないでくれ、と。

こうして、桃太郎は生涯、鬼と共に暮らしましたとさ。

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