長編が苦手な方にオススメ!伊坂幸太郎「残り全部バケーション」のあらすじ・感想・解説

2016/11/08

2012年に単行本が発売され、2015年に文庫になった伊坂幸太郎さんの作品「残り全部バケーション」

伊坂幸太郎さんの本ではその他の本か有名すぎて、あまりなじみのない作品かもしれませんが、私個人的にはこの「残り全部バケーション」の面白さは伊坂幸太郎作品でも有名作を差し置いてでもオススメしたいくらいの面白さであると思っています。

そんな「残り全部バケーション」ですが、普通の長編小説とは違った構成になっておりますので、そこからまとめていきます。

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残り全部バケーションの全体像

短編が集まってできている

既に以前に発表している短編作品が4作と単行本化する際に書き下ろされた短編1作の計5作によって成り立っています。

この5作がそれぞれ章として成り立っており、相互に登場人物をベースとしてリンクしているので、短編をすらすらと1つずつ読んでいけば、知らぬ間に長編を読んでいたことになっている!という作品です。

つまり、「なかなか長編を読むのはしんどくて、いつも本は買うのはいいけれど、途中で読むのを辞めちゃうんだよね~」という方にもオススメです。

ではその短編作品がどのように並んでいるのかというと、

  1. 残り全部バケーション
  2. タキオン作戦
  3. 検問
  4. 小さな兵隊
  5. 飛べても8分

という並びになっています。

内容がないよう(あらすじ紹介)

「いや、目次だけ伝えられてもどんな作品かわかりませんやん!」という声が聞こえてきましたので、それぞれのあらすじをご紹介いたします。

残り全部バケーション

本全体の表題にもなっている「残り全部バケーション」。最初っからこのタイトルのエースが登場いたします。「いきなり出してしまって大丈夫なのだろうか?」「最初から本気を出してしまって、あとの楽しみがなくなってしまうんじゃないか?」と、そう思われることでしょう。

しかし!

大丈夫なのです。確かにこの章は面白すぎるのですが、安心して読み進んでください。待っています。後ろにもビックウェーブが待っています。乗るしかない、このビックウェーブに

で、「肝心の内容がないよう」ですが、

この章は、ある家族の離婚前の家族会議シーンから始まります。しかし重々しい雰囲気ではなく、家族に内緒にしていたことを今こそ公開しよう! という趣向の会議であり、その最中に父のPHS(携帯電話ではない)に

「適番でメールしてみました。友達になろうよ。ドライブとか食事とか」

とメールが来ます。

普通はここで無視して終わると思うのですが、返事を返して友達になろうとします。

一体、どのような話になるのでしょうか?

タキオン作戦

ある組織の下請けである溝口と岡田は偶然、虐待の跡のあざを残した少年と出会います。そこで何を思ったのか岡田はその少年への少年の父からの虐待を止めさせる作戦にでます。

しかし、その作戦は少年の父に「おい止めておけよ」と忠告をしたり、虐待について通報をするような普通のやり方ではない、全く普通ではない壮大な作戦に打って出ます。

「その発想は無かった……」と誰もがなること間違いなしです。

 検問

とても短い40Pいかないくらいの短編。

1章2章と出てきた溝口さんが新しい相棒である太田と共に女性の誘拐した時の話。

溝口さんと太田と誘拐した女性を乗せた車は検問に引っかかります。検問に引っかかるのはいいのですが、違和感のある検問謎の荷物その背後に隠れている大きな陰謀。いったい何がどうなるのでしょうか?

小さな兵隊

こちらは1章2章と出てきた岡田の少年時代をある岡田の友人からの視点で切り取った話。

クラスの女子のランドセルすべてに落書きをしようとしたり、校門近くの塀を青く塗りつぶしたりする「問題児」岡田君。その岡田君の行動が気になる「僕」は、スパイ活動をしているという父にその話をします。岡田君の秘密を知った「僕」は見えない敵と戦います

少年たちの戦いを追った話です。

飛べても8分

ずっと出てきている溝口さんが新たな相棒である高田と車に乗っている際、溝口さんの思い付きで後続車に「当り屋」をしようとし、実行するのですが、当たった相手の車のトランクから銃が見つかります。しかし、その相手は銃を突き付けてきて逃走。その逃走のドタバタで溝口さんの足が車にひかれ入院することになります。このころ、溝口さんと高田の所属する組織のトップの毒島さんの元に犯行予告が。犯人の特徴が銃を所持していた車の特徴と一致し、話が展開していく……と思いきや、衝撃の結末が!

この残り全部バケーションという短編集のふりをした長編のクライマックスがそこにはあります!

時系列で並べ替え

この短編5作品は同一世界でありながら少しずつ時代が違います。

その時系列にそって並び替えてみるとこうなります。

  1. 小さな兵隊
  2. タキオン作戦
  3. 残り全部バケーション
  4. 検問
  5. 飛べても8分

①小さな兵隊は岡田の少年のころの話なのでこの中では最古の話です。

②タキオン作戦はまだ溝口さんと岡田が解散していないころで、

③残り全部バケーションはその二人が解散した時の話。

④検問では溝口さんは新たな仕事仲間を見つけており、

⑤飛んでも8分は締めくくりの作品なのでもちろん時系列では最後です。

残り全部バケーションの感想

スタートの違和感

不倫・離婚、この言葉だけ聞くとものすごい暗いイメージですが、伊坂幸太郎さんは残り全部バケーションでは物凄い明るいポップなイメージで話が進んでいきます。通常であればどんよりとした雰囲気で進みそうな状況がそうではない。その違和感のある状況、そのギャップがとてもいいですよね。このポップさは本当に強いなぁと感じます。

悪人(?)ーレッテルの危険性ー

間違いなく、岡田や溝口さんの行っている仕事は善人よりか悪人よりかで言えば悪人よりです。

しかし、著者もこの作品の中でキャラクターに述べさせているように、人を型にはめようとしてしまうと、本来その人を100%知っているならばありえない事さえその人の特性に入っているに違いないと決めつけてしまします。心の中ではそんなことは思っていないと思っていても人間の無意識というのは怖いもので、ふとした瞬間に意識の氷山に浮かび上がってきます。

その怖さ、その反省。理解していても今一度自身に省みさせるような深い文章がそこにはありました。

今後、流行らせていきたい「怒髪天」

今どきの女子高生がこの「残り全部バケーション」を読んだら絶対一回は「怒髪天」を使いたくなるだろうなと呼んでいて思いました。

この言葉は短編残り全部バケーションで早坂家のお母さんが怒りを表現するために使っていたのですが、その語感の良さが耳馴染みしますよね。

元々は「怒髪天を衝く」という言葉で、区切りは「怒髪/天を衝く」の区切りですが、それを敢えて「怒髪天」で区切るあたりが本当に面白いです。意味は文中の通り「めちゃめちゃ怒ってる様子」です。衝きまくります。

こういう「元を知っての敢えて崩して使っていく」というのは言葉の変遷に通じるものがあるように思います。

やっぱり大好きゴダール

伊坂幸太郎作品で事あるごとにでてくる「ジャン=リュック・ゴダール」ですが、この作品でも出てきます。

「眠くなる」やら「退屈」やら書かれていますが、絶対好きですよね。伊坂幸太郎さん。

バックミラーの例えが秀逸

第1章の「残り全部バケーション」にて出てきた例えなのですが、過去に未練がある早坂家の父に対して岡田が言った例えです。

その例えが秀逸なので、ここに引用したいと思います。

「そんなこと考えないほうがいいですよ」俺は自分でも意識する前に言っていた。「過去のことばっかり見てると、意味ないですよ。車だってずっとバックミラー見てたら、危ないじゃないですか。事故りますよ。進行方向をしっかり見て、運転しないと。来た道なんて、時々確認するくらいがちょうどいいですよ」

分かりやすいですよね。

見開き1ページにつき1回くらいクスッと笑えるようなこの作品の中に、こういう例えや示唆的な深い言葉も散りばめられています。

一応、解説(ネタバレ含む)

最後まで読めば、この各短編の関連性についてはわかるとは思いますが、一応まとめとして何点か解説を付け加えます。

岡田の友人の映画監督=小さな兵隊の主人公

これはわかりやすいですが、度々出てくる岡田の少ないかつての友人の、父が「スパイ」であり、現在は映画監督という人が、小さな兵隊の主人公です。

「残り全部バケーション」という言葉

1章の残り全部バケーションで岡田が言った言葉で、題名にもなったこの言葉ですが、この言葉をあのシーンで早坂沙希にサラッと言ったのには、岡田の中に「バケーション」「バカンス」という言葉があったからですが、その言葉が岡田の中に印象深く残った瞬間のシーンが別の章で描かれています

それは、4章「小さな兵隊」で、岡田とのゴダールの「小さな兵隊」を観た時のことを主人公が回想しているシーンにあります。

「バカンスのことを考えた」

あの映画の中で、拷問を受けている主人公がそう独白する。岡田君はそれを気に入りその後で何度か口にした。

この時から岡田はバケーションバケーション言っていたんでしょうね。

飛んでも8分の「サキさん」=?

最終章の最後のシーンで毒島さんに岡田は食べ歩きブログのサキさんであると告げられ、その言葉が本当かサキさんに確認します。その返事が返ってきた段階で話は終わり、読者は「どっちなんだ!」となります。

その件なのですが、その毒島さんの言っている通り①「サキさん」=「岡田」であるとする説と、いやいやサキという名前は早坂沙希のサキで②「サキさん」=「早坂沙希」だろうとする説がありますが、

②の「サキさん」=「早坂沙希」ならなんで毒島さんがそれ知ってるの!? となりますので、まず間違いなく①の「サキさん」=「岡田」説が正しいでしょう。

さらに、1章の中でも早坂家族とデザートを食べるシーンで、

俺は自分の椅子に腰かけ、目の前のケーキを口に放り込んだ。甘味が口に広がり、お、と思う。今までこういった菓子類に興味はなかったものの、案外に美味いではないか、と発見した。世の中にはまだ俺の知らないものがあるのか、と思うともっと調べたくなる。

と書かれています。

ここから、甘い物のブログを始めた経緯が伺えます。

そして、偽名の「サキさん」は早坂沙希の沙希由来でしょう。存在を消さないといけないので、偽名を使ったり性別を偽るのはもちろん必要でしょうし。

アドバルーンの係りの人=溝口さん?

そうです。アドバルーンの係りの人=溝口さんです

まとめ

いい作品、いい物語、いいキャラクターでした。

最初の章の「残り全部バケーション」を読んだときはメインの話は早坂家族の話を膨らませていくのかな? と思っていましたが、2章からの流れから溝口さんと岡田の話であると理解しました。この二人はいい関係で立派な大人となったのでしょう。

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